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市場見通し、オルタナティブ投資、サステナブル投資、インデックス投資の複数のテーマを切り口に、ブラックロックの海外レポートの日本語版を中心にお届けします。投資テーマは、フィルター機能で絞り込みいただけます。
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脱炭素経済への移行(トランジション)と気候変動への耐性(レジリエンス)
ブラックロックは、トランジションがテクノロジー、産業および地域のそれぞれの観点からどのように展開するのかを予測するための独自のモデルを開発しました。当モデルに「BlackRock Investment Institute (BII)」などからマクロ経済のデータのインプットを取り入れたものが「BlackRock Investment Institute Transition Scenarios (BIITS)」です。BIIのサステナブル投資リサーチ・分析チームの責任者であり、BIITSの開発を担うChristopher KaminkerがBIITSの概要について解説します。(12:16)
2022年6月に開催したブラックロック・グローバル・サミット「脱炭素社会に向かうトランジション期の投資~『WHY』から『HOW』へ」より、お客様からの反響が特に大きかった4セッションを日本語字幕付でご用意しました。
アントニオ・シルバ:
このパネルでは、Aladdin Sustainabilityについて、また、より広く、移行におけるデータ、アナリティクス、テクノロジーの役割についてお話します。ブラックロックは、お客様が移行期を乗り切り、移行について考察し、どのような経路をとるのが望ましいかを考えられるよう支援しています。関心が高いのはデータ、アナリティクス、テクノロジーが移行において果たす中心的な役割です。コンテンツだけでなく、データは、拡張性、ガバナンス、透明性、柔軟な活用など、あらゆる面を兼ね備えている必要があるということです。ブラックロックでは、拡張性、柔軟性、透明性、ガバナンスといった言葉を並べると、まさにAladdinの話になります。気候変動リスクが投資リスクの一部であることを考えれば、ブラックロックが、Aladdin上の運用とリスク管理のワークフローにサステナビリティを組み込んでいることは、驚くことではありません。そのため、私たちはこれまでそうしたソリューションを構築してきました。Aladdin Climateにおいて、また資産運用において優れたソリューションを有しており、少数の、しかし非常に信頼できるパートナーと共にそれを構築していることを誇りに思っています。まず、コリンに質問させてください。移行をめぐる多くの会話は、明らかに移行がどのように展開するかわかっているという暗黙の了解があります。ただ残念ながら、それは事実ではなく、移行がどのように展開すべきかという規範的な見解があるのみです。例えば、2050年までにネット・ゼロを達成したい場合、それをどのように達成したいか、移行の経路についての異なる見方や自身の見方について考え議論する上で必要なソリューション、テクノロジー等が限られています。その点について考えをお聞きしたいと思います。お客様と対話したり、協働する際に、なぜ異なる見解が生じるのか、お聞かせください。
コリン:
素晴らしい質問ありがとうございます。この20年間、Baringaはエネルギーシステムのモデル化、エネルギー移行のモデル化に加えて、各国政府、インフラ投資家、エンドツーエンドのエネルギーバリューチェーンの参加者に、エネルギーシステムがどのように変化していくかについて助言することに尽力してきました。そして、この期間中のすべての作業が、Baringa気候変動シナリオモデルへと発展し、現在ではブラックロックとのパートナーシップの中核となり、Aladdin Climateに統合されています。シナリオモデルをどのように考え、シナリオを構築するかという点で、最も重要なことは、完全にグローバルで統合されたシステムにより、経済、政策、移行、人口動態など、これらすべてを相互に結びつけ、シナリオを作成することです。それに加えて、高排出セクターの実に詳細なセクター別モデルがあり、さらにモデルは世界を12の地域に分類しています。これは非常に重要なことです。なぜなら、セクター、さらにはサブセクターレベルでの移行を理解する必要があり、それが世界のさまざまな地域にどのような影響を及ぼすかを理解しなければならないからです。移行の影響は人口統計、需要、発展の経路、政策、新技術の可能性などにより、全く異なるものになると思われます。ですから、シナリオの中でボトムアップの視点を持つことは、サブセグメント、異なる地域が異なるシナリオの中で、どのように移行が実現していくのかということについて、私たちがお客様にアドバイスする際にも、お客様がシナリオを利用する際にも、非常に重要なことです。
モデレータ:
そうですね、移行について考えるとき、異なるセクターが異なる形で移行するということは非常に重要な視点です。その違いが顧客へのアドバイスにどう現れるか、いくつか例を挙げていただけますか。
コリン:
はい、その通りです。重要なことは、たとえば運輸部門をグローバルなレベルで1つの部門として考えるだけでは不十分で、サブセクターに分解する必要があるということです。例えば、航空機の場合、短距離路線と長距離路線について考えなければなりません。世界のさまざまな地域、フライトの代替性、低炭素燃料などの新技術に世界のさまざまな地域が適応する能力、世界のさまざまな地域で予測される政策、規制、税金などについても考えなければなりません。このようなレベルで考える必要があり、また、移行が個々の企業にどのような影響を与えるかを理解するためには、企業が様々な地域や航空部門の各セクターにおいて、どのように関与しているかということも理解する必要があります。
モデレータ:
今お話にあったシナリオの作成と情報の収集・整理について、もう少し詳しくお聞かせください。
コリン:
もちろんです。冒頭でアントニオが言われたように、気候シナリオ分析を開始した当初は、結果を念頭に置くかたちで始まりました。NGFSやIEAが開発し、イングランド銀行が要求するストレステストや世界的に行われている規制当局のストレステストでは、このようなシナリオが使用されていました。これは本当に重要なことで、さまざまな形の移行が企業や投資家、投資先企業にどのような影響を与えるかを理解する上で、今後も重要なことでしょう。しかし、今後の方向性、あるいはイノベーションは、どうすればカスタマイズしたシナリオを開発できるかにかかっています。私たちが気候変動シナリオモデルを開発するために行ってきたこと、そしてあなた方Aladdinのチームと一緒に開発していることは、まさにカスタマイズされた自身のシナリオ作成を可能にすることです。
例えば、中国での電気自動車の普及が基本シナリオよりも早く進むと考えた場合、その前提条件を変更することも、What If分析を行うこともできます。既存のシナリオをもとに、主要な地域で政策が変更された場合、あるいは移行を促す重要な新たな技術が想定よりも5年早く、あるいは5年遅く大規模に導入された場合、結果にどのような影響を与えるかを分析するのです。そのため、お客様が既存のシナリオを少しずつ調整し、ゼロから独自のシナリオを作成できるようになるまでの過程を見ることができます。これらすべてにおいて最も重要なことは、使用している基本モデルがカスタマイズを可能にする柔軟性を兼ね備えていることであり、モデルが内部的に一貫していることです。そのため、前提条件を変更した場合にも、その影響がシナリオ全体に波及し、気温の変化や世界のさまざまなセクターや地域への影響がどうなるかという連鎖が考慮されます。
モデレータ:
技術、政策、マクロ環境、消費者の嗜好、これらすべてがどのように組み合わされ、これらのパラメータに対する見方の違いが、移行が実際にどのように展開するのかについての異なる見方につながるのかを理解しようとしている過程であると考えると、とても興味深いですね。ありがとうございました。もちろん、ブラックロックでは、移行がどのように展開するかについての当社の見方が透明かつ明確でありながら、柔軟性があり、そのため、お客様が多様な見方を持つことができるようなソリューションを実現するために取り組んでいます。お客様はさまざまな仮説のもとでストレステストを行いたいでしょうから、それを首尾一貫したフレームワークに落とし込むことは、非常に重要であり、エキサイティングな仕事です。
ではちょっと話題を変えます。このような概念的なフレームワークやモデルから、より具体的なもの、つまりフレームワークや、モデルや分析をサポートするために必要なデータ、さらには投資の方法や移行に対する考えについて意思決定をサポートするためのデータについて考えてみましょう。レベッカと彼女のチームはこの分野で豊富な経験を持っています。そこでレベッカ、あなたはお客様とフレームワークや、移行の経路を考えるために必要なデータについてどのように議論していますか?
レベッカ:
そうですね、先ほどもお話があったように、投資家が独自の見方を展開できるようなソリューションを提供することが重要で、これによって投資家の目標により適したフレームワークを柔軟に選択することができます。というのも、皆さんもご存知の通り、様々な目標に対して様々なフレームワークが乱立していますよね。ESGフレームワークは、リスク評価に重点を置いています。国連のSDGsのフレームワークは、地球に与えるインパクトに重点を置いており、17の目標があります。それから、TCFDやTemperature Alignmentのような気候変動のフレームワークもあります。しかし、投資家は現在、規制の遵守、サステナブル投資に関する規制のフレームワークを重視しています。例えば、SFDRやEUのタクソノミーのようなフレームワークの中では、気候変動に焦点を当てている部分が大きいのです。そのため、気候変動は非常に重要です。投資家にとって、様々なフレームワークを持ちながら、それを既存の運用プロセスの中で柔軟に適用することが必要ですが、そのためには、先ほど申し上げたような、ツールと適切なデータといったソリューションが非常に重要です。そして、意思決定や投資を行うために、適切なデータを適切なタイミングで提供することが重要です。私たちClarity は、そうしたソリューションを開発し、現在はAladdinに統合して、投資家が複数のフレームワークで必要となるデータにアクセスできるようにしています。
例えば、スコープ1、2、そしてスコープ3に関するデータです。ご存知のように、これは非常に難しい課題で、サプライヤーや消費者、顧客の排出量を推定するために、大がかりな見通しが必要になるからです。しかし、私たちはできる限り多くのデータを集め、機械学習モデルを活用して入手できないデータを推定しました。スコープ3だけでなく、スコープ1やスコープ2の排出量も、企業が開示を行っていないと、推定が困難です。そこでカバレッジを、CO2排出量を報告している8,000社から、3万社に拡大して投資家に提供し、さらにAladdinでも利用できるようにしました。
コリン:
レベッカ、どのフレームワークを選択しどのように使うべきかについてお客様が考えられるよう、どのようなサポートを行っているかもう少し詳しく知りたいのですが。
レベッカ:
はい、最も重要なことは、投資家がまず自身の目標を理解することです。つまり、何を達成しようとしているのか?投資のリスクを最小化しようとしているのか、サステナビリティの要素とも関連づけたいのか、それとも世界にインパクトを与えたいのか。それとも、先ほどアントニオが言っていたように、ネット・ゼロを目指すのか?つまり、投資によって何を達成したいのかによるのです。そして、どのような時間軸で投資を行うかにもよります。
モデレーター:
はい、あなたの回答はとても興味深いですし、残念ながら、私たちはこの話をここでで終わらせなければなりません。アナリティクス、テクノロジー、ガバナンスを統合することで、コアとなる情報が得られ、さまざまな方法で利用できるようになります。レベッカ、コリン、ありがとうございました。冒頭に申し上げたように、私たちはAladdin側で、投資フレームワークをサポートしており、その中でサステナビリティに関するソリューションを構築することに注力しています。また、AladdinのESGソリューションを通じて、気候変動と移行に取り組む優れた方法を提供しています。ご清聴ありがとうございました。
1. 気候変動のシナリオをリスク管理に統合する - Aladdin Sustainability
気候変動リスクは投資リスク。Aladdin Sustainabilityは気候変動リスクに関するデータ等を組み入れたリスク管理システムです。本セッションではAladdin Sustainabilityに気候変動シナリオモデルのデータ、データ分析等を提供しているBaringa PartnersとClarity AIが実例を交えて、投資家が移行を実現する為に重要なフレームワークの選び方やそのポイントを語ります。(14:41)
主なポイント:
・移行についての議論が異なる見解で食い違う理由
・気候変動シナリオモデルをカスタマイズする
・投資家が重視する移行のフレームワークと、その意思決定に必要なデータ
モデレータ:
ディラン、ミーガン、ご一緒できてうれしいです。ディラン、まずあなたからお願いします。テマセクは、プライベート市場への投資だけでなく、サステナビリティの分野でも長い実績があります。サステナブル投資への取り組みの原動力は何でしょうか?
ディラン:
クリステン、ありがとうございます。素晴らしい質問ですね。テマセクでは、私たちは単なる投資家ではなく、将来を見据えた組織として、正しいことをしなければならない、良いこともしなければならない、そしてそれらに長けていなければならない、と常に考えてきました。そして、この3つが気候変動や気候変動に対処するためのソリューションに必要という文脈で、非常にうまく理念が合致したのだと思います。このことが、気候変動に関連する投資機会により多くの資金を投入する原動力となっています。しかし、それ以上に、私たちは、サステナビリティをすべての行動の中核に据え、将来に向けてポートフォリオを構築し、企業の移行を実際に支援する方法を考え、さらにより革新的なソリューションが市場に出回るように、そして炭素排出削減の推進においてすべての企業を支援するために、資本を投入する方法を考えなければならないと思っています。
ラリー・フィンクをはじめとするブラックロックの経営陣は、今後の世界のあり方について、私たちの間で強い信頼関係を築いており、気候変動に真剣にかつ迅速に対処する必要があるという点で考えは一致しています。そして、現在の厳しい環境にも関わらず、私たちは投資家として、市場に適した解決策を促進するために何かをする必要があります。このように、私たちの間には明確に一致した考えのもとに関係があるのです。
モデレータ:
素晴らしい。Decarbonization Partnersの立ち上げ時のチームには両方の組織から参加していますね。なぜ、それが重要だとお考えですか?
ディラン:
何か重大なことをしようと決意しているのであれば、ミーガンや他の素晴らしい才能を持つ人たちに加えて、自社の中核となる人たちをこのベンチャーに参加させる心づもりがあるべきです。このことは、私たち2人がこのベンチャーに対して、単に資金を提供するだけでなく、人的資本を直接的にあるいは間接的に提供し、このベンチャーをサポートする覚悟があることを表しています。このことは、ブラックロックやテマセク以外の組織から参加する人たちにとっても、私たち2社がこの事業に真剣に取り組んでいることを示すことにつながると思います。
モデレータ:
ミーガン、次はあなたの番です。あなたが行っている投資の例を教えていただけますか?また、将来的にどのような機会があるとお考えですか。
ミーガン:
私たちは、レイトベンチャーやアーリーグロースと呼ばれる分野に大きな投資機会を見出しています。例えば、投資ラウンドではシリーズCやシリーズDなどです。私たちが投資したいのは、ほぼ実証済みの技術を持ち、スケール拡大の準備が整っている企業です。そういう企業に私たちは真の好機を見出します。セクターとしては、二酸化炭素の回収・利用・貯留、カーボンマネジメント、バイオ由来などの低炭素製品、低炭素エネルギーや再生可能エネルギー、先進的モビリティ、デジタルトランスフォーメーションに投資していく予定です。これは2050年かそれよりも前に脱炭素化社会を達成するために、極めて重要になります。また、将来的な機会として、炭素の分離・回収・利用・貯留の分野への投資に非常に期待しています。なぜなら、こうした技術革新はカーボンインテンシティを下げるのに役立ちますが、脱炭素化のプロセスで最後まで残ってしまうCO2を除去する方法が必要だからです。ですから、炭素の回収、利用、貯留は、私たちが将来的に投資したいと考えている分野なのです。
私たちは、先ほど申し上げたレイトベンチャー、アーリーグロースというステージに焦点を当てています。そして、脱炭素化にも焦点を当てています。つまり、早すぎるのも遅すぎるのもダメで、実証済みの技術を持ち、スケールアップが可能な企業にフォーカスすることで、私たちが望む脱炭素化へのインパクトを与えたいと考えています。第二に、テマセクとブラックロックという2つのブランドネームが私たちの後ろ盾として支えてくれていることです。また、新興企業にとっても魅力的です。テマセクとブラックロックが後ろ盾となっていることで、上場、デットファイナンス、プロジェクトレベルのファイナンスなど、初期から後期まで、企業のライフサイクル全般をサポートすることが可能なのです。ブラックロックとテマセクが支援することは、本当に素晴らしい差別化要因です。
モデレータ:
ディラン、話を戻しますが、テマセクはエネルギー移行に関して他にどのような戦略的取り組みを行っていますか。また、最も興味を惹かれることは何ですか。
ディラン:
私たちは、エネルギー移行の分野で有望な企業に直接投資しています。バッテリー技術、蓄電システム、さらには先進的な地熱システム、2040年代以降に可能性を秘めた核融合技術など、さまざまな分野に投資しています。私たちはこれを何年も前から行っています。私たちの投資先企業自身も、エネルギー移行の道を歩んでいます。2025年までに発電能力の75%を再生可能エネルギーにすることを目標にしている電力会社がありますが、シンガポールはエネルギー事情が非常に悪く、スペースもなく、自然の再生可能エネルギー源も乏しいため、これを達成するのは容易ではありませんが、その達成にコミットしています。同時に、航空会社もあります。ご存知のように、航空機の場合、炭素排出量を削減するのは難しいのですが、航空会社は、持続可能な航空燃料を混合燃料の一部として確保し、航空セクターから生じる排出量の削減に貢献するために、できる限りの努力をすることにコミットしています。ですから、テマセクと私たちの投資先企業の間では、特にエネルギーに関して、公正な移行を確保するという観点からも、着実に資本を投下していくという大きな動きがありました。
モデレータ:
ディラン、投資先企業についてですが、テマセクはさまざまなセクターの投資先企業を幅広く抱えていますね。ネット・ゼロへの取り組みとして、こうした企業とはどのように関わっているのでしょうか。
ディラン:
第一に、私たちが数十年もの長い年月をかけて築いてきたガバナンスのシステムと枠組みでは、これらの投資先企業の取締役会や経営陣が、少なくとも戦略や日々の事業運営を主導することを求めています。しかし、だからといって、私たちが株主として関与しないわけではありません。私たちが抱えるすべての会社に対して、情報の共有、アイデアの共有、世界中で発見された解決策の活用を確実に促していく中で、そこにある有望な解決策をもとにうまく連携していける企業もあるでしょう。しかし、より重要なのは、すべての企業が同じ考えに立ち、炭素排出量の削減に向けてどのように行動すべきかを共有することだと思います。そのために、私たちはテマセクにサステナビリティ・カウンシルを設置し、年に2回、私たちの投資の中核をなす全ての投資先企業のCSOが中心となって会議を開いています。そして、CEOも出席をすることを求められています。そのため、私たちトップは、企業を正しい方向に導くために何をすべきかを十分に理解しているのです。
モデレータ:
それは興味深いですね。ミーガン、あなたの話に戻りましょう。技術や投資を評価する際に、最も重要視する要素は何でしょうか。
ミーガン:
私たちは、主に4つの基準で判断しています。第一に、投資家に対して高い収益率があること、そして脱炭素化への強いインパクトがあることが必要です。それが私たちの出発点です。私たちは主に4つの基準で判断しています。まず、投資家への高いリターンと、脱炭素化へのインパクト。2つ目は、お客様から需要があり、採用の可能性があるかどうかです。その際、繰り返しますが、パイロットの段階で投資する必要はなく、製品を発売する商業化に向けた準備ができた段階で、その設備に投資したいのです。そして、お客様がそのパイロット設備から生産された原料の試用を経て、実際に需要があることを出荷数量を通じて確認したいのです。それは製品を売り出す準備ができていること示すからです。3つ目の項目は、コスト削減です。私たちは、これらの製品が、より炭素集約的な同種の製品と同等のコストになることを確認するために、調査を進めています。私たちは、このような投資機会に投資する際、4つの主要な基準を設けています。第一に、私たちが望む脱炭素化のインパクトを持ちながら、投資家に高いリターンをもたらすこと。2つ目は、実際にお客様から採用が期待できるレベルの需要があり、このビジネスチャンスから製品を売り出す準備が整っていることです。3つ目は、私たちは、規模も準備も整った十分に実績のある技術に着目しており、パイロットの段階では投資する必要はなく、最初の商業化設備に投資することで、スケールアップと成長を支援できると考えています。そうすることで、その企業は私たちが求めるようなインパクトを与えられるのです。また、デュー・デリジェンスを行う際には、コスト削減の見通しを明確にし、これらの機会がより炭素集約的な製品と同等のコストになることを確認したいと思います。ですから、私たちはそのような機会を探しているのです。
ディラン:
クリステン、投資家の観点から補足してもいいですか?ミーガンが言ったこと、特に最初のポイントは、重要だと思います。投資家は、脱炭素ソリューションへの投資を価値創造戦略としてとらえるべきであり、ブラックホールのようなものに投資しているように見えてはならないのです。私たちテマセクは長期的な資金を提供しますが、有望な技術にはパイロット設備への投資であっても問題ありませんし、同じものや同じステージのものに投資するのではなく、他の投資家が行っていることを補完する形で投資を行うこともできます。リターンや利益を得ることと、気候変動目標に整合的な機会に投資することは矛盾することではありませんし、それは私たち全員が認識すべきことだと思います。そして、投資家のみなさんはそれぞれご自身の役割をお持ちです。なぜなら、気候変動に関しては、私たち全員が事実上同じ船に乗っており、私たちは持っている資本を、良いことをするだけでなく、効果的に活用する手段を持っているからです。
モデレータ:
ディランは、この分野で豊富な経験をお持ちです。その投資経験の中で、移行期における投資家の資本を投入する能力について、主にどのような変化がありましたか?
ディラン:
私たちが投資を始めた当初は、有望なソリューションの進化の初期段階で投資を行う用意のある投資家は非常に少なかったと思います。実際のところ、ビル・ゲイツが設立したBreakthrough Energy Venturesのような、その分野に関心を持つ創業者などが、急な資金需要に対応するのが一般的でした。しかしこの3年で瞬く間に、かなり大手の投資家がシリーズA,B,Cにおいて直接投資するのを目にしました。それはとても興味深く期待できます。しかし、この1、2年の間に、他にも多くのファンドが誕生し、資本金の額も少なくありません。そして、このことは重要な進展と言えるでしょう。なぜなら、ソリューションを促すため、特にテクノロジーベースのソリューションの進化に投資するために利用できる資本は、有望だからです。投資家がこうしたファンドに資金を投入する用意があるということは、非常に期待できる展開です。つまり、他の投資家もより長期的な機会に注目しているということです。投資家は、より長期的な機会に価値を見出しています。
モデレータ:
ミーガンもこの分野で豊富な経験をお持ちですが、特に投資家として、投資家の移行を実現する能力について、どのような変化を感じていますか。
ミーガン:
この分野に投資している私たちにとって、15年間は本当に長い道のりでした。私たちは皆、一緒に「代替エネルギー」からスタートしました。私がこの分野に投資を始めたときは、そう呼ばれていました。それがクリーンテック1.0、クリーンテック2.0、クライメートテック、そして現在は、2050年またはそれ以前にネットゼロを達成するために「脱炭素化」という非常に強力な言葉を使っています。それは長い道のりでした。しかし、私が言いたいのは、今がその時だということです。非常に勢いがあり、政府や企業がネットゼロを公約しています。政府も企業もネットゼロを公約し、株主もネットゼロを要求し、お客様からの要求もあり、資本もある。そしてついに、テクノロジーの準備が整い、スケールアップしてインパクトを与える準備が整ったのです。この10年間、太陽光発電のコストは毎年約20%ずつ下がっています。*1 専門家の予測では、2024年までに電気自動車は内燃エンジン車と同等のコストになり*2、適切な資本を投入すれば、2030年までに70%のセクターにおいて、低炭素製品のコストがより炭素集約的な製品と同等になると言われています。*3 ですから、今は投資するのにとてもエキサイティングな時期なのです。私はこの統計が好きで、2050年までにネットゼロを達成するために、この分野にどれだけの資本を投入する必要があるかという統計について話すのが好きなのですが、それは4兆5千億ドルという数字です。2050年までにネットゼロを達成するためには、今から2050年まで、毎年4兆5千億ドルを投資する必要があるのです。一地球市民として、これは圧倒される、おそろしい数字です。しかし、資産運用者として、イノベーターとして、これは特別な機会、前例のない機会なのです。
ディラン:
1点、言っておかなければならないことがあります。私たち全員が一緒になって、意見を出し合い、炭素削減ソリューションをより現実的なものにするために貢献することが必要です。つまり、投資家、ファンド、政府、企業、新興企業など、互いに協力し合い、それぞれの役割を果たすことが必要なのです。そして、私たち一人ひとりが脱炭素化に向けた道を進まなければなりません。進むことを厭わず、そのうちに心地よさを感じ、やがて自信を持って、望ましい目標に向かいより多くのリソースを投入できるようになります。先ほどミーガンが言ったように、私たちが設定した目標よりも早くネットゼロの世界に到達するためには、変化のペースを加速させるために、十分な資本を確保する必要があるのです。
モデレータ:
ミーガン、ディラン、お時間をいただきありがとうございました。本当に洞察に満ちた会話でした。
*1 出所:国立再生可能エネルギー研究所
*2 出所:UBS Evidence Labアナリスト
*3 出所:IEA、2050年までのネット・ゼロ - 分析
2. プライベート市場におけるサステナブル投資の現在と未来
ブラックロックとテマセクは2021年にパートナーシップを組み、脱炭素ソリューションへの投資を行っています。プライベート市場でサステナブル投資とイノベーションの原動力となるのは何か。豊富な経験から得られたサステナブル投資の知見と意義について、テマセクCEOディルハン・ピレイ・サンドラセガラ氏をゲストスピーカーに迎えて議論しています。(14:53)
主なポイント:
・テマセク社のサステナブル投資に対する姿勢とサステナブル投資を続ける理由
・両社が注目するプライベート市場における、今後有力なセクター
・エネルギー移行企業とのエンゲージメント ~テマセク社の事例~
モデレータ:
資源のセッションにようこそ。今日、私たちは、仕事のやり方から生活の仕方まで、あらゆるものを脱炭素化しようとする巨大な挑戦に直面しています。本日はご参加いただきありがとうございます。そして、この難しいテーマに取り組めることを嬉しく思います。 ではさっそくですが、マイク、ネットゼロへの移行には、既存のエネルギーシステムとは根本的に異なるインプットが必要だと思います。その中で鉱業の役割が改めて認識されつつあるようですが、投資家が何か見落としていると思われる点はありますか?
マイク・ヘンリー:
お招きいただきありがとうございます。私が投資家の皆さんにお伝えしてきたことは3つです。一つは、脱炭素化へのプロセスや行程が、実は非常に金属鉱物資源に依存しているということです。パリ協定の目標である摂氏1.5度に温度上昇を抑制するためには、今後30年間で過去30年間に生産した約2倍の量の銅、4倍のニッケル、2倍の鉄鋼が必要になります。それは電化や充電池など様々な脱炭素化のインフラ構築に必要です。これが1つ目のポイントです。第二に、こうした金属を生産することは、実はますます困難になってきています。グレードが低く、規模も小さく、より深い場所にある鉱床から産出されることになり、これらの根本的な問題は地域社会との関わり、生物多様性への潜在的影響、水の管理など地上での問題に対処する必要が出てきていることは周知のとおりです。そこで3つ目のポイントとして、こうしたコモディティを生産する高い基準を設定し、それを維持する優良企業が世界には必要であるということです。今後、この分野では、技術的なノウハウ、バランスシート、ESGに関するあらゆる問題に積極的に取り組んできた実績を持つ大企業がますます優位に立つと思います。こうした企業は、この新しい世界で優位に立っており、金属に対する世界の需要増に対応することができるでしょう。
モデレータ:
はい、資源業界が、膨大な供給ギャップを満たすというこれまでにない課題に直面し、多くの投資家がそれについて考え始めていますし、企業も同じように考えていると思います。アディティヤ 、鉱業は、世界が必要とする多くの産業や製品の元になっていますが、そのすべてが簡単に脱炭素化できるわけではありません。アルセロール・ミッタルは、鉄鋼生産の脱炭素化にますます力を入れていますが、鉄鋼は産業の中で脱炭素化が難しい分野のひとつとみなされがちです。なぜ鉄鋼は脱炭素化が難しいのか、そしてネットゼロへの道のりはどのようなものなのか、視聴者の皆さんに説明していただけますか?
アディティヤ・ミッタル:
お招きいただきありがとうございます。皆さん、おはようございます。鉄鋼は世界の排出量の7%を占めており*1、これが厳しい事実であることは明らかです。しかし、ひいき目抜きにして、鉄は素晴らしい素材です。鉄は無限にリサイクル可能なので、どこかに廃棄されることもありませんし、1トン当たりの二酸化炭素排出量が最も少ない、つまり製造に必要なエネルギーが最も少ない素材です。鉄鋼は私たちが考える脱炭素化社会の未来の素材です。マイクは、鉄鋼の需要が倍増すると言っていますが、これは明らかに再生可能エネルギーのインフラに使われるものです。鉄鋼の脱炭素化への道筋が見えてきたことは、本当に良いニュースですが、課題もあります。基本的に、私たちが選んだ道は、石炭ベースの製鉄をガスに置き換えることです。つまり、最初のステップは、高炉を直接還元鉄(DRI*2)に置き換え、天然ガスを注入することです。仮に水素が安価になり、水素を注入できるようになるとしましょう。そこで重要なのは、それがいつなのかということです。もう一つ考えられるルートは、アルセロール・ミッタルではスマート・カーボンと呼んでいますが、CCU*3やCCS*4技術を使って、基本的に炭素を捕捉し、隔離し別の形で活用する方法です。
そのCO2を高炉のルートで別の形で利用するのはどうか?水素の経済性の点では、投資や技術開発など、両面で進展が見られます。一方でCCUやCCSの面でも同じことが言えますが、かなり遅れています。水素を使うとなると、鉄のコストが30%上昇します。CCU、CCSを使うと、そのスケーラビリティが今ひとつはっきりしない。ですから、課題は残りますが、私たちは前進しており、これから脱炭素の施設をスペインに設置しようとしています。困難な道のりではありますが、私たちが全力で取り組んでいることであり、達成可能な道のりであると信じています。
モデレータ:
特に、水素の供給と炭素隔離、炭素回収については後ほど改めて触れたいと思います。この話を聞いている人たちにとって重要なことは、私たちが目指しているグリーン経済が、現在の経済よりもどれほどコモディティ集約的であるかということです。例えば、天然ガスを使った発電用タービンとその発電規模を支えるために必要なコモディティ集約度に対して、風力発電用タービンや同規模の発電設備を製造する際のコモディティ集約度を比較してみると、設備に付随する他のコモディティを除いたとしても、およそ100倍の鉄鋼が必要です。これは30年後に起こることではなく、今起こらなければならないことです。そこで、アディティヤにお聞きしたいのですが、アルセロール・ミッタルの鉄鋼の脱炭素化のフレームワークについて、また、グリーン・スチールや低炭素鉄鋼の生産に至った具体的な事例について説明してください。
アディティヤ:
アルセロール・ミッタルは、基本的に優位な立場にあると思います。鉄鋼業界では最も多様性に富んだ人材が揃っています。研究開発能力も高く、毎年3億ドルを研究開発費に投じています。ですから、ここ10年で理論上は30億ドルの知的所有財産を蓄積しています。*5 そして、私たちは技術的に強い立場から出発しています。23社OEMのうち22社に、技術力でナンバーワンはどこかと聞くと、皆アルセロール・ミッタルと答えます。
23社目は私たちを2位としています。他の鉄鋼会社の傘下だからでしょうが。当社には人材があり、脱炭素にコミットしており、技術的なリーダーシップがあります。では何をすればいいのでしょうか。私たちが焦点を当てるべきなのは、3つのことだと思います。まずプロセスですが、先ほど設備の更新について触れましたが、現在、フランス、ドイツ、スペイン、カナダの4カ国で直接還元鉄(DRI)、つまりガスを動力源とする操業設備を導入しています。また、世界各地に既存のDRI設備を保有しており、この技術については経験が豊富なので、目新しいものではありません。さらにカナダのDRI施設では、鉄鋼会社として初めて水素を注入しましたが、このテストは成功し、非常にうまく機能しました。生産された鉄鋼のクオリティは高く、ゼロカーボンです。このように技術革新という点では、いくつかの取組みを行っています。CCUとCCSの課題について言及しましたが、ベルギーのゲントにある当社の製鉄所を訪れると、冶金や電気のエンジニアだけでなく、生物学者もいるのがわかるでしょう。高炉から排出されるCO2を微生物が食べて、バイオエタノールに変換するのです。しかし、現在の市場価格からすると、これはEBITDAの4倍の投資額なのです。
CCU技術という点では明らかに前進しており、リターンも良好です。電解槽技術の効率化、貯蔵技術の効率化、再生可能エネルギーや水素を必要とする分野への投資を考えており、当社の研究開発とスタートアップ企業のエネルギーをどのように結び付けるかを考えています。3つ目は言うまでもなく製品のイノベーションです。何が新しい鋼材で、その炭素排出量はどの程度なのかを把握できる市場を作りたいのです。私たちは2つの商品を開発しました。1つは再生可能なリサイクル鋼で、二酸化炭素排出量が非常に少なく、もう1つはグリーン・スチール認証で、これはネット・ゼロ・グリーン・スチール認証で、基本的にネット・ゼロ・スチールのことです。お客様には大変好評ですが、現在、市場開拓の初期段階にあります。私たちが目指しているのは、プロセス・イノベーション、プロダクト・イノベーション、そして技術イノベーションを実現するための枠組みを作ることです。炭素排出量を減らしながら、当社と世界の鉄鋼業界をより良くにすることを目指しています。
モデレータ:
ありがとうございます。多くの人があなたの示すリーダーシップに期待していることでしょう。BHPに話を戻しますが、御社は明らかに、鉱業界においてこの分野ですでにリーダー的存在です。御社がこれまで何を行い、どのようにしてここまで来たのか、そしてこれからどのような旅路が待っているのか、御社自身の計画をお話しいただければと思います。
マイク:
もちろんです、ありがとうございます。私たちはこの点に関して長期的なコミットメントを掲げています。実際、BHPが初めて気候変動に取り組み始めたのは、1990年代にまでさかのぼります。私が2003年に入社したとき、最初に手がけたプロジェクトのひとつがCCUS*6 プロジェクトでした。ですから歴史もあります。私たちは、2004年当時、欧州のNASCENTスキームで排出量を取引した最初の組織の1つでした。そして2016年、私たちは事業活動における排出量について、ネットゼロ目標を発表しました。ここで、私たちの排出量がどこから来ているのか、少し説明したいと思います。当社の排出量の約40%は事業所で使用する電力からきています。これがスコープ1とスコープ2です。40%はディーゼルエンジンによるものです。そして、20%は軽減が困難な部分です。ですから、私たちが最初に取り組むべきは、事業所への電力供給です。その一例として、私たちが近年チリで行ってきたことをご紹介したいと思います。チリでのエネルギー源となっていた100%石炭火力をやめ、送電網の安定性を図り天然ガスを使ったピーク時用の発電に初期投資を行いました。その後すぐに、再生可能エネルギーによる発電に完全に移行しました。
この一連の作業は、約5年から7年かけて行われました。これにより、私たちは市場の動向、社会の期待、自分たちのネットゼロ目標を達成するために必要なことを見極める必要がありました。そして、ガスによるピーク発電への初期投資で自らをバックアップし、チリの送電網で再生可能エネルギーをサポートする意思を強固にしました。この成功例により、BHPはチリだけでなくBHP全体の事業活動からの排出量を約15%削減することができました。私たちは今、チリで行ったことをオーストラリア市場にも適用しています。事業活動からディーゼルを取り除くとなると、これもスコープ1の40%に相当します。スコープ2については、先ほど技術革新の話をしましたが、社内と社外の両方で取り組んでいます。また、最近、電気自動車を数台調達し、現在試験運用中で、将来の実装も検討しています。このように、私たちは市場での地位、購買力、そしてコラボレーションというアプローチを駆使して、他の企業と協力し、必要な技術分野を促進したり、技術の進歩を加速させようとしているのです。2030年までにスコープ1とスコープ2のネットゼロを達成するために、自社投資、他企業との協業が必要です。そのためにかかる費用は約40億ドルです。今現在、この40億ドルのNPV(正味現在価値)は約5億ドルのマイナスとなるようです。*7 ですから、先ほどアディティヤから説明があったミッタルが設定したリターンにはまだ達していませんが、社内で設定した課題は、資本コストを賄うこと、つまりNPVをゼロ以上にすることです。私たちは、脱炭素化のために行っているすべての投資を、リターンの観点からみています。
モデレータ:
そうですね。数字の乖離がずっと縮まってきていて興味深いです。時間が経つにつれて、マイナス要素が縮小しています。もうひとつ、できればお二人に触れていただきたいのは、サプライヤーに何を求めているかです。つまり、変化を加速させるために、設備のサプライヤーなどに何を求めているかということです。お二人はビジネス上の関係もありますから、興味深いですね。アディティヤはマイクに何を求めますか?マイクは設備サプライヤーに何を求めますか?では、まずマイクから始めて、次にアディティヤの話に移りましょう。
マイク:
設備のサプライヤーに対して、私たちは要望を明確に示しています。スコープ3でも、2050年までにスコープ3をネットゼロにするつもりであることを明確にしました。ですから、まずサプライヤーの現状を把握する必要があります。現在、どのような取り組みを行っているのか。私たちと同じようにネットゼロの達成に強くコミットしているサプライヤーは、かなりの割合にのぼります。そして、彼らの計画を理解する必要があります。つまり、上流工程で脱炭素化を進めているという確証を得ること、そして、私たちのオペレーションを脱炭素化するために必要な技術を加速させるために協力する、あるいは協力してもらっているのです。
アディティヤ:
私たちも同じように、サプライヤーと協力し、彼らがどのような道を歩んでいるのかを理解しようとしているところです。BHPや他の鉄鉱石の会社とは、ある程度、良い対話ができていると思います。彼らがどのような道を歩んでいるのか、いつグリーンな鉄鉱石を供給できるのかを理解しようとしています。そしてマイクが言ったことすべて、ディーゼルと電力から来る排出量を減らし、再生可能エネルギーに置き換えるという話が大変興味深かったです。また、製品のイノベーションも必要です。当社は鉄鉱石事業を垂直統合しており、5位か6位の規模でもあるため、さまざまな等級の鉄鉱石を試し、これらが技術的プロセスでどのように機能するかをある程度確認することができるのです。先ほどDRIの話をして、今はDRIペレットですが、グリーンブリケットを使うこともできますし、水素ベースのものを使えば、鉄鉱石に必要な加工作業のコストを削減することも可能なのです。お客様からは、非常に良い評判を得ていると思います。自動車のOEM、倉庫もしくは、eコマース業界は全体としてネットゼロに対するコミットメントを重視し、ネットゼロの鉄鋼を購入したいと考えています。ここには貴重な機会があると考えています。水素を使用する場合、鉄鋼業にとっては非常に高価で拡張性の問題もあり、鉄鋼のコストは30%上昇する一方、自動車のコスト上昇は1%程度になると思われます。バリューチェーン全体で考えると、確かに1%というのは大きいのですが、経済的に立ち行かなくなるような急な上昇ではありません。ですから、お客様からは好評で、良いパートナーシップの構築プロセスになっていると思います。私たちが重視しているのは、「グリーンウォッシングに気をつけよう。認証プロセスを理解しよう。ライフサイクル全般を理解しよう」ということです。そうすれば、正しいことを行っている企業が最終的に勝者となり、低炭素鋼を販売しているように見せかけて、実際にはすべての排出量がスコープ 3にあるような企業は勝者とならないでしょう。 このように、私たちが行っている対話は、本当に実りある対話です。すべてのお客様、サプライヤー、私たちが話をする人たちが、協力や提携、あるいはネットゼロ達成に向けた独自の計画に真剣に取り組んでいると思います。
モデレータ:
それはすばらしいことですね。では、マイク。
マイク:
私は今アディティヤが言った「グリーンウォッシングに気をつけよう」という点が非常に重要だと思っています。企業が声明を出したり、ある種のコミットメントをするのは簡単ですが、実際に何が起きているのかを理解し、供給される製品のグリーン度や、企業自身の脱炭素化のために取っている行動について、ある程度の認証を求めることが、すべての人に求められているのではないでしょうか。現在、私たちのお客様は、一部の製品、特にグリーン製品において、それらがどのように生産されているかを明示するよう要求し始めていますが、まだ広まってはいません。特に銅とニッケルにその兆候が見られますが、アディティヤが言ったように、今後数年のうちにその傾向が強まると思います。
モデレータ:
お二人に聞こうと思っていたのですが、御社はお客様にこうした製品の供給をする中で、様々な形で評価されることがあると思います。それは必ずしもグリーンプレミアムに限らないと思いますが、長期供給契約や、炭素の多い製品の割引など、他の方法で報われるかもしれません。市場のその部分はまだ発展途上だと思いますが、興味深いのは、必ずしも金銭的な報酬ではなくとも何か事例があれば、それをぜひ聞きたいのですが、こうした変化に対して顧客から評価される兆しは何か見えているのでしょうか?まずはアディティヤからお願いします。
アディティヤ:
金銭的にも報われていると思うのですが、市場の厚みがあまりないので、これには注意が必要ですね。小さいロットばかりで、このようなグリーン製品はまだ製造が少なく、売り切れてしまうからだと思います。人々は、それがどのように機能するのか、またエンドユーザーと一緒に、全体の排出量削減の道筋にどのような効果をもたらすのかを見たいので、プレミアムを進んで支払うのです。ですから、このグリーンプレミアムなど、多くの重要なポイントが挙げられると思います。これはやや難しい部分ですが、私たちの製品は非常に効率的なので、ある程度のグリーンプレミアムが発生するだろうと思います。脱炭素化が進めば、コストが上がるのは当然です。CO2排出量に対してコストがどの程度上昇するかが重要な問題で、これが規制により確実性を増していくことが求められます。CO2がどの程度の価値になるのか、明確な道筋が必要です。そうすれば、技術開発を進め、技術進展の道筋を描き、CO2コストを相殺する費用対効果の高い製品を作ることができ、その上で、グリーンプレミアムは理論的にはゼロとなります。そのためには、公平な競争条件が必要で、炭素の国境調整が必要です。理想としては、グローバルな炭素価格が必要です。鉄鋼会社やその他のサプライヤー、そしてエコシステム全体の焦点は、「いかにしてコストを最小化し、CO2削減量を最大化するか」です。それが、私たちがこの道を歩んでいく上で、本当に重要なことだと思います。
モデレータ:
マイクはいかがですか?
マイク:
私たちの立場から言うと、アディティヤが指摘したように、今は市場の厚みが比較的薄く、私たちが生産している製品についてはことさらそうでしょう。しかし、実際に関心は寄せられています。例えば、銅の下流工程にある企業や自動車メーカーが、BHPからの銅やニッケルの供給に関心を示しています。それは、私たちがESGに関して優れた実績を持ち、良い管轄区域から供給しているからです。銅の場合には、カーボンフリー、もしくはグリーンな銅を米国に向けて、ブロックチェーンなどによる適切な追跡機能で鉱山からお客様のところへお届けします。私たちが生産している製品には、まだグリーンプレミアムはついていませんし、現時点では意味のあるものではありません。上流において、炭素集約度が高い鉱山の企業か低い企業かによって、企業によりパフォーマンスのバラツキがはっきりとしていく中で、市場はプレミアムが上昇する期間を経験するでしょう。やがて、すべての人がスコープ1もスコープ2も基本的にゼロで操業することを期待される新しい標準が設定され、その時点でプレミアムは消滅すると思います。しかし、移行期には、鉱山会社などに採用すべき商習慣など必要な行動を促すために、一過性であっても、市場に何らかの金銭的インセンティブが発生することが予想されます。 モデレータ:
その通りだと思います。今後数年間で急速に進化していくでしょう。本当に残念なのは、このセッションが時間切れで終了することです。私たちのお客様は、このセッションから本当に多くのことを学んだと思います。私が学んだことのひとつは、鉱業や鉄鋼業が新しい技術の組み合わせを必要としていることが明らかだということです。お二人がおっしゃったように、現在供給している製品では足りない部分があり、それが拡大すればするほど、顧客の需要も拡大しなければなりません。また、こうした産業がネットゼロへの移行を行うには、多くの資金と資本が必要であることも明確だと思います。最後に、この大きな変化の結果として、不確実性、創出される価値、座礁資産によって失われる可能性のある価値に関して、資本を配分する際に投資家が注目すべき点について、何かご提案があればお聞かせください。まずはマイクからお願いします。
マイク:
まず何を重視すればいいのかというと、「信頼性」だと思います。私が言う「信頼性」とは、先ほども出てきた言葉です。私たちは急速に進化する環境にあり、そうした背景から、企業が表に出てコミットメントを行うよう圧力がかかっています。しかし、本当に重要なのは、企業がコミットメントを果たせるかどうかであり、それがリスクや長期的な価値などにも関わってくるのです。ですから、株主や投資家は、その企業が過去にどのような業績を上げてきたかによって、コミットメントとその質の両方を見極める必要があると思います。
モデレータ:
ありがとうございました。アディティヤはいかがですか?
アディティヤ:
はい、マイクの言った通りだと思います。私たちは、明らかに信頼性を必要としていますし、競争上の優位性を必要としています。組織や経営陣に目を向けるとき、本当に重要な競争優位性は何でしょうか?私たちは、二酸化炭素の排出を削減するために必要なテクノロジーについてよく話をします。また、人についてもよく話します。いかにモチベーションを維持しているか、組織内のチームや経営陣がいかにフォーカスできているかが勝者を選ぶ際の参考になると思います。環境は不安定で、規制も変わり、技術もそれに適応していくと考えられます。
モデレータ:
お二人とも、本当にありがとうございました。これは私たちが経験する信じられないほど複雑な移行なのです。その規模は莫大です。しかし、お二人の会社が示しているリーダーシップは、私たちに大きな希望を与えてくれますし、投資家として、お二人が道を切り開いていることに感激しています。本当にありがとうございました。
*1 出所:Wood Mackenzie, https://www.woodmac.com/press-releases/steel-sector-emissions-must-fall-75-under-2c-scenario/
*2 DRI:直接還元鉄のこと。天然ガスを使用して鉄鉱石を固体のまま還元し電炉に移して溶解をおこなう方法。
*3 CCU:二酸化炭素を回収し、再利用すること(CO2 )。
*4 CCS:炭素回収・貯留。CCSは、廃棄物であるCO2 を回収し、大気中に出てさらなる地球温暖化につながらないような方法で地中に貯留する。
*5 https://corporate.arcelormittal.com/media/press-releases/arcelormittal-expands-partnership-with-carbon-capture-and-re-use-specialist-lanzatech-through-us-30-million-investment
*6 CCUS:二酸化炭素回収・有効利用・貯留すること。
*7 出所:https://www.bhp.com/-/media/documents/investors/annual-reports/2021/210914_bhpclimatetransitionactionplan2021.pdf
3. 鉱業・鉄鋼業界の挑戦 - 脱炭素化の実現と投資としての視点
鉱業と鉄鋼の分野は、脱炭素化の実現に向けて、極めて困難な課題に直面しています。本セッションでは世界の鉱業と鉄鋼の分野をリードするBHP社とアルセロール・ミッタル社のCEOをそれぞれゲストに迎え、如何にして両社が、実現が難しい同分野で脱炭素化の世界のリーダーとなったのか、また投資家はどのような視点を持つべきか、それぞれの立場から話を伺いました。(28:21)
主なポイント:
・ネットゼロへの移行で鉄鋼業が果たす役割、投資家が見落としている点
・アルセロール・ミッタル、BHP、両社の脱炭素化へのフレームワークとその未来
・急速な変化を前に投資家が重視すべき点
モデレーター:
こんにちは。今日はBBVAの会長であるカルロス・トーレス・ビラさんをお招きして、スペインの銀行がどのようにネットゼロと脱炭素に取り組もうとしているのか、その見識を共有していただきます。一歩下がって見渡すと、私たちはサステナビリティとインフラの交差点を、今後数十年で最大の投資機会として捉えています。たしかに、私たちだけでできることではありません。民間からの資金だけではできません。資金ギャップを埋めるために、そしてネットゼロへの移行を公正かつ公平に行うために、政府と協力する必要があるのです。また、この移行は一夜にして実現するものではありません。移行の対象は、再生可能エネルギーや従来のエネルギーだけでなく、より広範なものであることも忘れてはなりません。これはこれまで構築してきた世界全体の移行でもあるのです。建物、農業、製造業。すべてが移行しなければならないので、大変な作業になります。そこで今日は、ネットゼロに到達するためのさまざまな経路について、また、移行に資本を動員させる方法についてお話したいと思います。それでは、カルロスさん、BBVAがどのようにネットゼロの目標に取り組んでいるか、そしてどのように世界の脱炭素化を目指しているか、特に融資ポートフォリオの観点から脱炭素化について触れていただけますでしょうか。
カルロス:
ありがとうございます。このような複雑なトピックに皆さんと一緒に取り組むことができて、本当に嬉しく思います。まず、BBVAがどのようにポートフォリオの脱炭素化を進めているのか、その詳細に触れる前に、より戦略的な側面からお話ししたいと思います。私たちは、この移行を戦略的な必須事項のようにとらえています。私たちのお客様の多くにとって、これは生き残りをかけた問題なのです。しかし、この戦略的要件の最もエキサイティングな側面は、冒頭にアンが言ったことと関係があります。私たちは、どう見積もってもすさまじい数字について話しています。2050年まで300兆ドルという見積もりがありますが、これはGDPの約8%に相当します。もちろん、ラリーがいつも言っているように、これは慈善事業ではありません。私たちはこれをやらなければならないし、投資家、消費者、社会に求められていることなのです。ですから、私たちは、この包括的なアプローチを理解し、脱炭素化の必要性が組織全体に影響することを理解し、これが組織全体に根付くように組織体制を見直しました。サステナビリティを横断的に推進するグローバル・ビジネス・ユニットを組織の最高位に設置しました。まだ導入したばかりですが、このトピックをすべてのチーム、組織の隅々にまで浸透させる上で、非常にうまく機能しています。リスクアナリスト、支店の個人・中小企業向けの営業マネージャー、エンジニアリング部門、データ領域の担当にまでわたり、すべての分野が影響を受けます。私たちは、これを組織全体に根付かせる必要があります。これにはBBVAが得意とするデジタル面での変革と大きな類似点があり、同じレシピブックに従い、BBVA内のすべての人の日常業務の一部にしようとしているのです。
さて、具体的な話に移りますが、私たちはネット・ゼロに署名し、その目標に向けたポートフォリオの脱炭素化には、セクター別の視点を通じて取組みます。まず5つ最も排出量が多いセクター、もしくは最も排出量の多い8セクターのうち5つを取り上げます。残りの3つは2022年の後半に発表する予定ですが、2030年までに排出量を削減することを公約し、目標を設定しました。2020年と比較し、電力分野では50%以上、52%ものカーボンインテンシティを削減します。自動車は46%のカーボンインテンシティを削減し、鉄鋼、セメントでも削減を、そして石炭では融資の完全撤退を決定しています。これが取組みの一つの大きな部分です。これは簡単なことではありません。指標を設定することはネットゼロ推進するにあたり確かに重要ですが、同じ量のカーボンインテンシティの削減を達成するには多くの方法がありますから、これは厄介なことです。ポートフォリオの形を変え、新たなお客様向けに融資し、移行の取り組みが進まないお客様から段階的に撤退することで、自動的に達成できるかもしれませんが、これは必ずしも地球にとって最良の結果とはいえません。時には、指標の観点からは現在よりもさらに評価が劣る顧客をポートフォリオに組み入れる必要もあります。もちろん、指標は改善しませんが、その顧客がしっかりとした移行経路を持っていれば、大きな影響を与える可能性があります。ですから、単に定点的な指標を見るのではなく、二重、三重に移行経路を確認し、すべての顧客が自社のCAPEXの方向性と、それが長期的な排出量プロファイルをどう変化させるかを理解している必要があるのです。そのため、移行経路は非常に複雑です。もうひとつは、資金を投入することで、これはすでに数字に表れています。2018年から2025年までに1,000億ユーロを投入する目標がありましたが、現在の時点にすでに1,000億ユーロを投入しています。昨年は目標を2倍の2,000億ユーロに引き上げましたが、早ければ年内に再び目標を引き上げる必要があることは否定できません。なぜなら、チームの大規模な動員や目標、そして移行に対する各顧客のニーズに焦点を当てた結果、私たちはすでに目標を前倒しで達成できる状況にある、からです。それから、部門別戦略の枠を超え、より多くの業務について詳細をつめていくことができます。私たちはグリーンテックに投資しています。最先端のグリーンテックを理解する必要があり、既に非常に競争力があるレベルにある再生可能エネルギーパークやソーラーパークなどのコモディティファイナンスを単に追求するのではなく、今後何が起こるかを本当に理解する必要があります。データは大きなトピックで、気候やサステナビリティに関するデータを強化します。もちろん、リスク管理も従業員へのトレーニングも必要です。
モデレーター:
興味深いですね。組織構造、測定基準、そしてブラウンからグリーンへの移行、これは大きな課題だと思います。排出量の多い企業をよりグリーンな方向に向かわせることに実際に取り組まなければなりませんが、あなたはブラウンの濃淡からグリーンの濃淡についてよく話しますね。ブラックロックもその表現が正しいと思っています。では、少し趣向を変えて、新興国市場に焦点を当てます。BBVAが新興国市場についてどのように考えているのか、また、現在あるニーズにどのように応えていこうとしているのか、カルロスさんはどのようにお考えですか。
カルロス:
はい、BBVAは新興国市場において非常に存在感があります。私が思うに、あなたが指摘するように、新興国はネット・ゼロへの競争をリードするべきなのです。なぜなら、彼らなしでは地球を脱炭素化することはできないからです。また、新興国の多くは、豊かな国や地域よりも気候変動の負の影響に苦しむことになりますし、すでに苦しんでいます。同時に、世界の脱炭素化に貢献するプロジェクトの可能性は計り知れないものがあります。新興国の多くには活用できる再生可能エネルギー源が豊富にあります。CO2を吸収する自然によるソリューションも豊富です。こうした地域の成長と発展のチャンスは計り知れないので、本来ならこれらの国々がネットゼロへの競争をリードすべきなのですが、これらの市場で大きな存在感を示している銀行の会長として、私はそうなっているとは思えません。脱炭素課題に対する認識は、アジェンダのかなり後にきています。おそらく、不確実性が高いこと、リソースの不足、他の競合する優先事項、切迫感が高くないことから、住宅、不平等、健康、インフラの欠如など、より差し迫った問題と比べて、長期的な課題とみられており、パンデミックはこの点ではこの優先順位を覆すような追い風になっていません。そのため、本来あるべきアジェンダとなっておらず、多くの障壁があります。政策の枠組みがより不確実であること、これらの市場への投資のリスクが非常に高いことから、長期的な資金調達や、脱炭素化のプロジェクトで見られるような長期的なファイナンスに対する投資家の意欲が少ないことなどが、障壁になっています。
ですから、先進国の側が多くのことを行うべきだと思います。私はここ数年、このことについて何度も言及し、訴えてきました。もちろん、新興国の政府もその役割を果たす必要がありますし、変革の大きな原動力となり得ます。BBVAは、政府がより大きな目標を設定し、民間資本を誘致し、可能なかぎり経済的に実現できるようにするために、市場に適切なインセンティブを生み出すよう、この問題への取組みを最優先させるための議論に積極的に参加しています。しかし、先ほど申し上げたように、先進国は資金調達と技術の両面でより大胆な支援を行うべきです。ですから、投資家がリスクとみなす懸念材料を少なくするために、1000億ドルをはるかに上回る資金が必要であり、またそのフレームワークも必要です。もちろん、それには協調的な取り組みが必要です。多国間機関、開発銀行、これらは素晴らしいチャンネルです。BBVAのような銀行も、そうした資金の流れを作るためのパートナーになり得ると思いますが、本当に流れを作りたいのなら、前途は多難です。
モデレーター:
はい、民間市場からより多くの資金を流入させることができるような、より革新的な考え方やパートナーシップを考え出すことは、間違いなく私たちが重視していることです。続いて、適切なインセンティブと連携のやり方ですが、よりサステナブルな気候変動に対応するインフラを構築する方法、それを構築するための適切なインセンティブについて、カーボンプライシングのアイデアについて、どのような考えをお持ちですか?また、グリーンなインフラを構築するために、どのようにすればより多くの資金を集めることができるとお考えですか?
カルロス:
冒頭に申し上げましたが、 脱炭素化には多くの投資が必要で、それは社会的責任などに起因するものではありません。自律した動きでなければならず、リターンを生み出すことも必要です。そして、必要な金額が非常に大きいので、民間の資金でなければならず、そうであれば、インセンティブが必要だからです。まずは、脱炭素化に逆行する既存の補助金を撤廃することを基本に据えることです。現在、化石燃料への補助金が1兆ドル以上ありますが、現在のようにウクライナ戦争などでエネルギー価格が上昇し、市場に圧力がかかると、手っ取り早くエネルギー代を安くするためにさらに補助金を出してこの影響を緩和しようという誘惑に駆られるかもしれません。それは避けなければならないと思います。それがまず基本にあり、逆行する動きにインセンティブを与えないことでしょうか。
それから、市場が送るシグナルも重要です。それによりエネルギーなど含めて適正な価格形成を促すのです。ただ、現在、世界中のエネルギー取引市場で問題が起きています。ヨーロッパだけでなく、オーストラリアの市場では取引が停止していますし、イギリスも同様です。ですから、エネルギー市場や脱炭素社会に関連する他の市場でも、外部からの介入による歪みを排除して、価格形成をできるだけ市場の力に任せるようにするために、多くの取組みが行われています。外的介入による価格の歪みは、外部で対処した方が良いように思われます。それから、もちろん、外部性、つまり温室効果ガス排出そのものの価格設定も含まれます。いくつかのメカニズムが散在していますが、市場は断片的です。政府主導で排出権取引を行う規制市場は包括的ではなく、場所によって異なるアプローチをとっていますし、民間主導のボランタリー・カーボン市場も、整合性、流動性に欠けるものです。やらなければならないことがたくさんあります。政策面でも、こうした市場を強化することは長い時間と労力を要しますが、良いシグナルがあれば、長期の投資をサポートすることになるでしょう
そうすれば、他の多くのインセンティブが生まれ、需要のシグナルをもたらすでしょう。多くの場合、誰かが最初の一歩を踏み出さない限り、他の誰かがその需要を供給する技術を開発しないという、身動きが取れない状況が発生しています。また、民間企業が一歩を踏み出す場合もあり、そうした例も見てきました。最後に、スタンダード(基準)について強調したいと思います。世界共通の基準があれば、資本市場が脱炭素化に向けて資本を配分する際の判断材料になりますし、それがまた新たなレバレッジやインセンティブにつながる可能性があります。以上です。
モデレーター:
はい、そうですね。ここで必要とされる資本の進化とさまざまなタイプについて考えるのは、とても興味深いことだと思います。私たちは、今日、何が投資可能か?今日、何ができるのか?そして、より大きな問題を解決するために必要となる種まきを、明日からどうするかということです。先ほど、イノベーション、テクノロジー、サステナビリティといった言葉や、その前にも、別の言葉がありました。BBVAでは、真のイノベーションについてどのように考えているのでしょうか。デジタル化の歴史とともに発展してきたというお話もあったと思います。トップダウンの視点でイノベーションを考え、それをどのように推進するかという点にご関心があるということでしょうか。
カルロス:
はい、ご質問ありがとうございます。成功した大企業にとって、革新的であり続けることは非常に困難です。なぜなら、これまで成功したことを繰り返すのが自然な傾向だからです。しかし、世界は非常に速く変化しており、同じ速度で変化しなければ、あっという間に時代遅れになります。そのため、まずはマインドセット、つまり革新的な考え方を持つことが重要なのです。私たちは、対外的に発信できるシンプルな理念を持っています。それは、私たちが推進したい3つの行動と3つの価値観にまつわるものです。 Client first、We think big、We are one teamです。「We think big」の中では、型にはまらないこと、驚きを与えること、そして現状を維持するのではなく、より良い方法、変化を促すという革新的な意味での野心的であることを強調しています。このことは、私たちの組織のあり方、私たち自身を律する方法、不透明であるものの将来性のあることに時間と資金を割く方法などに反映されています。例えば、フィンテックというカテゴリーがまだ存在しなかった頃、私たちはフィンテックに投資するパイオニア的存在でした。同じように、今お話したようなクライメートテックやグリーンテックもそうなっています。そして、チーム内では、イノベーションをサポートするための力学が働いています。世界を脱炭素化するためには、現在解決策がない問題を解決する必要があり、そのためには多くのイノベーションが必要です。私たちはその一翼を担い、最先端を走り、先駆者となることができるのです。
モデレーター:
はい、特に、問題の大きさと、私たちがどれほど迅速に行動しなければならないかを考えると全く同感です。カルロス、今日はありがとうございました。民間資金と政府の協力の必要性、新興市場のためのフレームワーク、そしてイノベーションを続け、最先端を突き進むことの必要性など、今回取り上げたテーマは、私たちも完全に同意するものです。あなたのご意見とBBVAの戦略をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
カルロス:
ありがとうございました。
4. 金融機関の視点 - 欧州BBVAのネットゼロへの移行
ネットゼロへの移行を達成しようとする時、その対象はエネルギー分野だけに留まりません。本セッションでは、ネットゼロへの移行を金融機関の視点から議論します。欧州スペインの銀行、BBVAの代表カルロス・トーレス・ビーラ氏に、融資ポートフォリオの脱炭素化の進め方、また新興国市場の移行への展望について伺いました。(19:36)
主なポイント:
・ポートフォリオを脱炭素化する- セクター別の視点を取り入れる
・ネットゼロへの移行における新興国市場への見解
・グリーンなインフラ構築へ、より多くの資金を集めるには
ブラックロックのご紹介
ブラックロックのパーパスは、より多くの方々が豊かな生活を送ることができるよう、サポートすることです。お客様の資金を預かり運用するフィデューシャリーとして、また金融テクノロジーにおけるリーダーとして、お客様の目標実現に必要なソリューションを提供しています。
※パーパスとは、企業が何のために存在するのか、企業の社会における存在意義をさします。
iシェアーズのETFは「Look-through Highway」システムに対応しています
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