2024年の債券投資機会
2023年12月|Rick Rieder
ハイライト
- 水泳選手が高い飛び込み台から飛び込んだ時に水しぶきが最も高く跳ね上がるのと同様に、金利が長期にわたって上昇した後、米国における債券のリターンは最も魅力的な水準に達すると見込まれます。足元の環境は債券投資家に極めて魅力的な投資機会を提供すると考えます。
- 利上げサイクルは最終局面に入り、米国債券市場のダイナミクスと経済的背景から創出される機会は投資家にとってまさに歴史的なものになると思われます。
- 端的に言えば、利回りカーブの短期と中期ゾーンの利回りが低下し、長期ゾーンはレンジ内での推移にとどまる傾向になることから、最終的にイールドカーブはスティープ化するだろうと予想します。
- したがって、ポートフォリオを安定化させるためには、クオリティの高い短期債へ投資することが理にかなっていると考え、利回り低下を通じた価格上昇を捉えるために中期のデュレーション・リスク(中期債のポジション)と信用リスクに対する選好を徐々に高めます。
- 本稿では、米国金利が当面は比較的安定した水準にとどまり、その後2024年後半に低下する可能性を強く示唆していると思われる経済的背景について解説します。そして、国債の大量発行が不安視される中でも債券市場を下支えすると思われる需給要因について考察します。
水しぶきが高く跳ね上がるのは、高い飛び込み台から飛び込んだ時
金融市場は経済との明確な関連性がありますが、同じものでないことは周知の事実です。これは2021年から2023年にかけて十分に実証され、米連邦準備制度理事会(FRB)が数十年ぶりとなる極めて急速な政策金利の引き上げを実施する中で、経済は驚くほど底堅く推移しましたが、米国債券市場はインフレ高進と急速な利上げを背景に下落しました。実際、2022年に米国10年債の年間リターンは過去最低水準となり、2021年と2023年も軟調なパフォーマンスとなりました。1900年以降、米国債券市場のパフォーマンスが3年連続マイナスとなったのはこの時期以外にも1度だけありましたが(1950年代後半)、これほど悪化することはありませんでした。さらに今回の米国債券市場の急落は、その規模と範囲が実に大きく、債券市場の中で保有高と取引高が最大のセグメントに深刻な影響を与えました(図表1参照)。しかし、水泳選手が高い飛び込み台から飛び込む時(金利が急激に上昇した後)に水しぶきが最も高く跳ね上がる(プラス・リターンを創出する)ことも広く知られています。そのため、足元の環境はこの先、債券投資家に極めて魅力的な機会をもたらすと考えています。
図表1:債券のパフォーマンスは利上げサイクルによって大きく悪化
年初来のリターン(%)
出所:ブルームバーグ、2023年10月30日現在のデータ
注記:年初来のリターンは対応する年の前年12月31日から当該年10月30日までの期間を表します。上記の資産クラスは、特徴とリスク特性が異なる様々な投資機会を示すために選択しています。上記の指数は左からブルームバーグ米国総合、ブルームバーグ米国債、ブルームバーグ米国長期国債、ブルームバーグ米国MBS指数を示しています。指数はすべて米ドル建てで、ヘッジを行っていません。指数のリターンは例示のみを目的としています。指数に直接投資することはできません。過去の運用実績は将来の結果を示す指標ではありません。
実際、利上げサイクルは最終局面に入り、米国債券市場のダイナミクスと経済的背景から創出される機会は投資家にとってまさに歴史的なものになると思われます。端的に言えば、利回りカーブの短期と中期ゾーンの利回りが低下し、長期ゾーンはレンジ圏での推移にとどまる傾向になることから、最終的にイールドカーブはスティープ化するだろうと予想します。したがって、ポートフォリオを安定化させる資産としてクオリティの高い短期債へ投資することに投資妙味があると考え(リスク対比の利回り水準は魅力的と考えられる)、また、利回り低下による債券価格上昇余地を見込んで中期国債のポジションと信用リスクを取ることを徐々に選好しています。次に、金利が当面は比較的安定した水準にとどまり、その後2024年後半に低下する可能性を強く示唆していると思われる経済的背景について解説します。そして、国債の大量発行が不安視される中でも債券市場を下支えすると思われる需給要因について考察します。
高金利の影響が顕在化し、2024~2025年の経済指標は軟化する見通し
米国市場はこの数カ月(2023年12月19日の本稿作成時点での見方)、特に消費者物価指数(CPI)や非農業部門雇用者数(NFP)などの経済指標に極端に依存しており、こうした短期的な経済指標に反応して市場心理、市場価格、予想が急激に変化することがあります。しかし、いずれの方向に動いても、経済の方向性が不明確なことから、極端な変化はすぐに巻き戻すことがほとんどです。実際、過去数回のCPIとNFPの発表前後10日間に、米国5年債の変動幅は20~50ベーシスポイントという極めて大きなものになっています(図表2参照)。こうした市場の変動性が高い状況は、インフレが持続的な低下基調にある一方で労働市場が驚くほど底堅さを維持しているという事実と矛盾しています。この市場の乱高下はすべて、FRBの反応を見極めようとしているためですが、FRBはより確信できる経済指標が出るまで当面は現在の政策を据え置き、この先2~3カ月の間(2023年12月19日の本稿作成時点での見方)に利下げが議題に上るようになる可能性があると思われます。
図表2:主要経済指標の発表前後に利回りは大きく変動
米国5年債:過去5回のNFPとCPIの発表前後10日間のピークから底までの取引レンジ
出所:米国労働統計局、2023年11月21日現在のデータ
米国においてはインフレ動向に改善が見られるようになり、FRBにとって問題は「政策金利をどの程度まで引き上げるか」から、「金利をどのくらいの期間にわたって景気抑制的な水準に維持するべきか」(つまり、低下したインフレ率に沿った水準への利下げをいつ行うか)に移行しています。FRBは、循環的な景気変動の影響を受けやすく金利感応度が高い経済セグメントの経済指標を注視するでしょう。それは例えば、地方銀行や商業用不動産であり、このようなセクターは現在大きな圧力を受けています。実際、FRBのパウエル議長は11月のFRB政策会合後の記者会見で、住宅市場が凍結していることに言及しました。このように、インフレ率が十分に低下し、労働市場に鈍化の兆候が現れ始め、金利感応度の高い経済分野に深刻な圧力がかかっていることから、FRBは当面、金利据え置きを継続するものの、最終的には2024年に利下げに転じる可能性が非常に高いと考えています(図表3参照)。
図表3:インフレ率は十分に低下しつつあり、労働市場は軟化を始めている
出所:米国労働統計局、2023年10月31日現在のデータ
債券市場は極めて魅力的な状況に
大きな水しぶきを上げ、プラス・リターンを創出する可能性に注目
米国における経済指標は軟化しつつあり、2024年にFRBがよりバランスの取れた政策スタンスや、最終的には緩和的なスタンスに転換すると、債券市場は極めて魅力的な状況になると見られます。歴史的に、FRBが利上げを一時中断した後、フェデラルファンド金利がインフレ率を上回っている時期、イールドカーブの逆イールド解消が始まる時期に、債券は極めて良好なパフォーマンスとなる傾向があります。市場ボラティリティと比較した足元の利回りを見ても、先渡市場の価格で見ても、現在は2021年初めの状況と正反対で、今後数年にわたって魅力的なリターンが見込まれると考えています。 実際、先渡市場の利回りは、足元FRBが推計する中立金利の中央値を大きく上回っており、サイクル終盤の市場織り込みが行き過ぎになることが多いことは歴史によって示されています(図表4参照)。
図表4:先渡市場では、利回りは過度に高く、債券市場の魅力度が高い可能性を示唆
出所:ブルームバーグ、米連邦準備制度理事会、2023年10月31日現在のデータ
さらに需給の観点で見ると、米国債の大量供給は長期的に深刻な懸念材料ですが、この1年は概ねマネー・マーケット・ファンドに資金を配分している米国の家計部門は、魅力的な利回りを固定するために、今後1年により多額の資金を債券に振り向ける可能性があると考える十分な理由があります。実際、米国の家計部門が保有する現金資産は現時点で約17兆ドルに上り、歴史的に見ると、債券に魅力的なリターンが見込まれるようになる足元のような局面で、債券への配分は過少になっています(図表5を参照)。こうした観点すべてを考慮すると、債券投資で現在の環境をどのように利用することが最善なのかという疑問が出てきます。また、ポートフォリオで魅力的なリスク調整後リターンを確保するために今後1年間に資産をどのように再配分すべきかも重要です。
図表5:米国の家計部門は多額の現金を保有し、債券への配分は過少になっている
出所:米連邦準備制度理事会、2022年12月31日現在のデータ
債券市場が好ましい環境へ変化する中、どのように投資を行うべきか
FRBによる利上げサイクルは終わりに近づき、投資家は歴史的な高利回りを享受するめったにない機会に恵まれています。現金を債券に振り向ける用意のある投資家に3つの主要な戦略を紹介します。
- 現金から脱却する。FRBが利上げを行っている間、現金は堅実な選択肢でしたが、市場の織り込みが正しいとすると、来年、政策金利は引き下げられる可能性があります。これは一見「無リスク」の現金に付与される利回りが低下し、突如として再投資リスクを伴うようになることを意味します。現金から短期債券戦略に切り替えることで、投資家は、足元の利回りが最も高い水準にある短期債へのエクスポージャーを追求することができます。
- 債券のラダー型ポートフォリオを構築する。満期まで保有することで、投資家は投資期間を通じて利回りを追求することが可能です。また、ラダー型ポートフォリオを構築することで、投資家は流動性ニーズに合致したキャッシュフローを構成し、満期前の売却によって損失を出す可能性を回避できます。
- 専門家に任せる。足元の債券市場には、高利回りの投資機会が豊富にあり、ブルームバーグ総合債券指数にとどまらないアクティブ運用の機会が提供されています。投資家は、ポートフォリオを調整することで、元本の保全、株式に対する分散、インカムの獲得といった目標達成を目指すことができます。多くのお客様にとっては、変化する環境を乗り切る力を持った運用会社に投資の意思決定を任せることも選択肢の一つになると思われます。
重要事項
当レポートの記載内容は、ブラックロック・グループ(以下、ブラックロック)が作成した英語版レポートを、ブラックロック・ジャパン株式会社(以下、弊社)が翻訳・編集したものです。また当資料でご紹介する各資産の見通し(米ドル建て)は、米国人投資家などおもに米ドル建てで投資を行う投資家のための見通しとしてブラックロック・グループが作成したものであり、本邦投資家など日本円建てで投資を行う投資家の皆様を対象とした見通しではありません。
記載内容は、米ドル建て投資家を対象とした市場見通しの一例として、あくまでご参考情報としてご紹介することを目的とするものであり、特定の金融商品取引の勧誘を目的とするものではなく、また本邦投資家の皆様の知識、経験、リスク許容度、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的等を勘案したものではありません。記載内容はブラックロック及び弊社が信頼できると判断した資料・データ等により作成しましたが、その正確性および完全性について保証するものではありません。各種情報は過去のもの又は見通しであり、今後の運用成果を保証するものではなく、本情報を利用したことによって生じた損失等についてブラックロック及び弊社はその責任を負うものではありません。記載内容の市況や見通しは作成日現在のブラックロックの見解であり、今後の経済動向や市場環境の変化、あるいは金融取引手法の多様化に伴う変化に対応し予告なく変更される可能性があります。またブラックロックの見解、あるいはブラックロックが設定・運用するファンドにおける投資判断と必ずしも一致するものではありません。
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