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Asia insights:日本株の見通しを引き上げ

2022年3月30日
  • BlackRock

日本株の見通しを引き上げ

日本株は、年初来のリスク資産の暴落から完全に逃れることはできなかったものの、相対的にアウトパフォームし1-3月期を終えることができそうです。3月29日時点のRefinitivのデータによると、米国や欧州の株式の代表的な指数が年初来3~7%下落したのに対し、日本のベンチマークであるTOPIXは先進国市場で唯一プラスとなっています。最新のBII Global Outlookでは、年初における供給主導型インフレに伴う政策の混乱に加え、ウクライナ侵攻がセンチメントの悪化を招き、エネルギー・ショックがそれに追い打ちをかけ、リスク資産が低迷した後で、株式を広く選好するとして、日本株式のオーバーウエイトを一段階引き上げています。不透明感が高まる時期にもかかわらず、日本にオーバーウエイトを追加し投資を継続するとしたのは、相対的に穏やかな国内の経済成長、配当と自社株買いの増加、金融・財政政策による支援が期待できるためです。

相対的に穏やかな成長の背景

オミクロン株の感染拡大による行動制限の継続は、日本の経済活動の再開を狂わせるというより、遅らせるだけだとみています。むしろ、ロシアのウクライナ侵攻に伴う石油、穀物、工業用金属などのコモディティ価格上昇の方がより重要であると考えます。このショックは世界的に経済成長率を押し下げ、インフレ率を高進させるでしょう。しかし、この影響はユーロ圏において最も顕著となり、米国や日本などの他の先進国地域にはそれほど表れないとみています。全体としてみれば、新型コロナ後の強力な経済活動の再開がもたらす力強い経済成長のモメンタムが、紛争に突入する世界の経済に成長のクッションのような役割を提供しています。ブルームバーグのデータによると、2021年12月期の日本のGDPは年率4.6%の成長となり、特にサービスに対する支出が好調で、民間消費支出は年率10%の伸びを示しました。また、政府はコモディティ価格上昇の影響を和らげるため、追加の財政支出策を準備しています。詳細は以後述します。

企業の2021年12月期決算では、日本企業の足元の業績が堅調に推移しています。財務省の「法人企業統計」のデータによると、TOPIX構成企業の売上高は5.7%増、経常利益は24.7%増となりました。製造業は22.1%増となり、エネルギーコストの上昇を吸収できたことがうかがえます。Refinitivのデータによると、日本企業のオペレーティング・レバレッジ(売上高をいかに効率的に利益に転換しているかを示す指標)は、25年ぶりの高水準で推移しており、この点は重要です。このことは、4-6月期の売上高が1桁台前半から後半の成長であっても、企業はコスト増を吸収し、利益が上振れる可能性があることを示唆しています。

好調な企業業績を背景に株主還元に拍車がかかる

日本の企業業績および株主還元

過去の実績は、将来の成果を保証するものではありません。 出所:BII、データは東洋経済、東京証券取引所、2022年3月時点。 注記: 東証上場の上位企業の2001年以降の配当総額、自社株買い総額、当期純利益の推移を示したもの。2021年の数値は推定値で、配当総額と純利益は東洋経済、自社株買い総額は三菱UFJモルガン・スタンレー証券。

好調な企業業績は、市場が低迷する中では、企業の増配や自社株買いの増加に拍車をかけると考えます。結果として、適正なバリュエーションに加え、魅力的な配当利回りにつながるでしょう(次のグラフををご覧ください)。また、株式のリスクプレミアムは、金利水準と企業収益の見通しを考慮した望ましい評価指標と考えられますが、現行の水準は日本を含めて、先進国全体の株式を引き続き下支えするとみています。

金融と財政の両面からの政策支援

日銀は10年物国債について0.25%のイールドカーブ・コントロール目標を保持する姿勢を示しています。このため、金融政策正常化への期待が強く反転した欧米に比べ、日本の金利は低水準に保たれる可能性が高いと考えます。こうした背景から、国債やクレジットとの比較で日本株式の相対的な魅力も維持されています。

日本はまた、ウクライナ戦争勃発後に起きたコモディティ価格上昇による経済的打撃を和らげるため、追加的な景気刺激策を発表する用意があります。国会は、オミクロン株、社会保障費、国防費の増加の影響を相殺するため、来年度の国家予算として107兆円(約9000億ドル)という記録的な予算を承認しました。政府はパンデミックからの復旧のための経済刺激策の予備費として、前年度と同額の5兆円(約420億ドル)を確保する予定です。また、政府は国内旅行を助成する「Go to travel」キャンペーンを再開する予定です。

主なリスク

日本の株式市場の主なリスクは、大企業が輸出中心のビジネスを展開しているため、世界的な景気減速が続くことだと考えています。つまり、現在のウクライナ侵攻がもたらしているような世界的な成長不安の影響を受けやすいということです。ロシアに対する制裁により新たな供給ショックが発生している間は、エネルギー価格がマクロ見通しとリスク資産に影響を与える主要な経路になるとみています。ユーロ圏以外の成長への影響は比較的限定的でしょう。IHS-Markitの3月のデータによれば、世界の製造業PMIは依然として50を超え、基本的な経済成長のモメンタムは比較的健全な状態にとどまっています。

Ben Powell
APAC Chief Investment Strategist
福島 毅
ブラックロック・ジャパンCIO

 

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